住宅雑誌Replan（リプラン）

　娘さんと２人暮らしのNさんが購入したマンションは、2人には広さもちょうどいい20坪弱の物件。築30年ではありますが、管理面もしっかりしています。物件価格は約５００万円。そこで、予算的に無理のない範囲の金額で快適性を高めるリフォームを行いたいと考えました。
　戸建てでは、断熱・気密・暖房・換気といった基本性能の向上を考えたリフォームの方法は比較的明確になっていますが、マンションでは結露への対応がなかなか難しいという側面があります。なぜなら、このような性能要件の基本になる「断熱」の改修は、マンション全体での取り組みが必要になる場合が多いからです。既存のマンションでは、外断熱というような建物はほとんどありません。断熱はコンクリート本体の壁内側に発泡プラスチック系の板状断熱材を施工し、そこから天井面に約1メートル程度の吹き付け断熱を行っているのが、実情です。多くの場合、窓は強度のことからアルミサッシが採用されていますが、アルミは断熱性能が低く、結露を誘引するといわれています。
　Nさんはこれまでも近隣の賃貸マンションで暮らしていました。そこはカビの発生により、健康面でも不安な住まいだったといいます。リフォームにあたって、最も重視した事柄は、カビ・ダニの発生源としての結露状況の把握。Nさんが購入した中古マンションも、北側窓面や壁面などで、大量の結露が発生しやすいと考え、間取り変更の工事で壁を解体するのと同時に、このあたりをチェックしました。マンション全体の断熱改修は難しいなかで、個別に対応できる結露対策もあるのです。結露を軽減するとともに、より良い室内環境を実現するために、自然素材を用いたリフォームをNさん宅では試みました。

　リフォーム前の間取りは、狭い居間に隣接して和室が２部屋連続しているという昔ながらのオーソドックスなもの。そのため使い勝手が悪く、せっかく南側に面しているにもかかわらず、家具類の配置が難しく昼間でも暗い印象でした。
　そこで、南窓に面した和室をつぶしてリビングと一体化し、従来そこにあった間仕切り壁も撤去。オープンなリビングに変更しました。これにともなって、オイル配管やテレビ共聴端子なども移設。また、リビングと残った和室との間を従来の襖（ふすま）から壁面に変更し、新たに壁上部に欄間窓を造作しています。
　カビ臭さは結露対策をしっかりやることが基本です。幸い陽当たりのよい南面の居室は、結露等は確認できませんでした。しかし、ニオイを吸収したり、呼吸する素材を付加して、少しでも室内の快適な空気環境を実現したいと考えました。
　そこで、環境を向上させるために、全室の壁に自然素材壁紙・オガファーザーを施工。さらに居間の大きな壁面に本格的な塗り壁・スイス漆喰を施工しました。漆喰は、室内の空気環境を調湿したり、ニオイを吸収する機能を持つ「本物の素材」です。オガファーザーはドイツの自然素材・ウッドチップ壁紙で、漆喰と同様に調湿性があり、漆喰のような質感も楽しめます。このように、結露対策をしっかり考えた上で、マンションでも質の高い空気環境を実現させています。

　北側居室のカーペットを剥がし、どんな状態かチェックしてみました。この居室の結露状況はかなり軽度な部類でした。確かに結露水の痕跡は見て取れますが、カビの発生状況などは明確には見られません。結露水は窓面に付着したものが窓枠下部に滞留し、そこから縁辺部を伝って床に落ちて、床面に広がっている様子が確認できました。このことは、壁面結露は明確には見られない、ということを表しています。であれば、窓面を断熱強化
して結露発生を抑えることで、カビ・ダニの発生も低減させられる可能性が高い、と判断しました。 　こうした施工者の目視判断に基づいて、Nさんの専有部分にあたる内側の窓を、すべてプラストサッシ（樹脂サッシ）に変更しました。外側のアルミサッシはマンションの共有部分で個別に手を加えることができません。専有部分である内側の窓を樹脂サッシにすることで、簡便に窓面の断熱性を高めることができます。また、北側の窓は形状が特殊でしたが、そのままプラストサッシを造作するとコストアップになるため、枠を工夫して既製品のタイプで収めることにしました。
　結露の軽減に着目し、室内の空気環境を向上させたNさん宅のリフォーム。マンション購入費用のほか、リフォーム費用を約１６０万円に抑えて、快適な室内環境を実現した好事例です。