いごこちの科学 NEXT ハウス

省エネ・省CO2が切実なテーマとなるこれからの日本の住宅。
本企画では住宅性能の最前線を探究する、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」として、住まいの快適性について解き明かしていただきます。

「人間にとって室内環境はどうあるべきか」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から日本の住宅室内環境の改善ポイントを解説していきます。

#微気候 #発熱 #放熱 #夏 #発熱源

東京大学大学院工学系研究科建築学専攻・准教授 前 真之 (まえ・まさゆき)
東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
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夏を涼しく暮らすコツを考えよう

今年の夏も各地で厳しい暑さが続きました。地球温暖化が進む中で、夏の暑さは今後もさらに厳しくなることが予想されています。一方で、オフィスや家の中では冷房が効きすぎて不快に感じたり体調を崩す人も少なくありません。実は、夏の快適性は冬よりもずっと複雑で込み入っています。今回は、そんな夏を振り返って、夏を快適に涼しく暮らすコツや工夫について考えてみましょう。

4 効果的に涼しさを得る方法は?

代謝熱を減らし、放熱を増やす方法はいくつもありますが、どの方法が効果的なのでしょうか? 図9に、各種の対策をした場合の、放熱の内訳と温熱快適性指標PMVの変化を示しました。なお放熱の内訳は、PMVとは別のより詳細な快適性指標SET*の2ノードモデルから計算しました。

図9:涼しさに効果的な対策は?

図9 涼しさに効果的な対策は?
PMVの値が0.5以下になれば、まず快適です。放熱量の内訳は、ET*の2Node modelから算出しています。

この環境を、涼しくする方法を考えます。代謝量(図9−1)・着衣量(図9−2)・風速(図9−3)・空気放射温度(図9−4)・湿度(図9−5)の1つだけ、条件を変えた結果をそれぞれグラフに示しました。PMVはプラス0・5を下回っていれば不満者率PPDは10%以下となるので、まずは十分に涼しいといえます。

図9−1:代謝量

代謝量(図9−1)のグラフからは、代謝量(met)が増加すると急激に発汗放熱が増えることが分かります。活発に行動するときは、発汗が不可欠なのです。逆に休憩したり昼寝をしたりして活動量を抑えることができれば、発汗なしに十分に涼しくなるのです。

図9−2:着衣量

着衣量(図9−2)のグラフからは、着衣を減らすと対流・放射の放熱が増加しPMVが低下する(涼しくなる)ことが分かります。着衣は個人ですばやく調整でき、自宅では服装に気を遣わずにすむので、おススメの対策です。

図9−3:風速

風速(図9−3)のグラフからは、風速を上げると対流放熱が増加し、PMVが低下することが分かります。ただあまり風速を上げても効果は頭打ちで、強すぎる風は不快や不便の原因になりますから、あくまで補助的な調整手段と考えるべきでしょう。

図9−4:空気・放射温度

空気・放射温度(図9−4)のグラフを見ると、温度を下げると急激に対流・放射の放熱が増加し、PMVも大きく減少することが分かります。PMV低下の勾配は、他の対策よりもずっと大きく、「効きがよい」ことを表しています。

断熱がしっかりした住戸では自然と空気温度は放射温度に近くなり、また必要な熱負荷も少なくて済みます。やはり、単純に空気温度(≒放射温度)を下げるエアコン冷房は、人体放熱の改善に最も効果的なことは明らかです。

図9−5:空気の湿度を変更

最後は空気の湿度(図9−5)を変更した場合です。湿度が低下することで、発汗放熱が不感蒸泄に変化していることが分かります。皮膚が乾き快適性は向上しているのですが、残念ながらPMVの減少は他の対策に比べてもかなり小さくなっています。省エネの面からも、除湿には大きな熱負荷(潜熱)が発生するため非常に不利となります。

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